ダッハウの強制収容所 Photo: Esaias BAITEL / Gamma-Rapho / Getty Images

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ワシントン・ポスト(米国)

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Text by Ellen Nakashima

第二次世界大戦時、米国では日系人が敵性外国人と判断され、強制収容の憂き目に遭った。それでも日系米国人の2世たちは、自国のために軍隊で功績を残そうとした。

ドイツ解放に赴いた日系人部隊は、そこで自分たちと同じ強制収容を味わったユダヤ人を目の当たりにして衝撃を受け、寒さと飢えに苦しむユダヤ人の命を救った。

だが戦後、彼らは多くを語らず、地元の人からもほとんど忘れられていた。その歴史に再び光を当てようとする動きが、80年後のいま始まっている。

知られざる「ニセイ」部隊


80年前、アバ・ノールは、ユダヤ人などの収容者ら数千人が、ナチスの強制収容所から数日間、強制的に歩かされた悪名高き「ダッハウ死の行進」のなかにいた。食事も水もなく、凍てつくような気温のなか、多くが命を落とした。

8日目の夜。疲れ切った収容者たちの上に雪が降り積もる傍ら、急速に迫りくる敵軍の到来を恐れ、監視の親衛隊が消え去った。

翌朝、米軍の兵士があらわれた。だが、その顔はノールが以前に見たものとは違った。彼らは日系米国人だったのだ。

彼らは米国で差別や疑念に直面しながらも、ヨーロッパでヒトラーの軍隊と戦った名高い部隊のメンバーである。この日系人たちのなかには、家族を米国西海岸の強制収容所に送られた人もいた。

「私たちにとって、彼らは天の使いです」。97歳になり、現在はイスラエルに住むノールは語る。

全員が日系2世である522野戦砲兵大隊の物語は有名ではないものの、全体主義と戦った米国人の多様性と、米国が長年ヨーロッパに貢献してきた事実を思い起こさせる。

522野戦砲兵大隊は、かの有名な442連隊戦闘団の一部で、日系2世のみで構成された部隊だ。「死力を尽くせ(Go for Broke)」のモットーのもと、イタリアとフランスで血みどろの戦いを繰り広げ、大勢の戦死者を出した。442連隊はその規模の小ささ、服務期間の短さにもかかわらず、米国軍の歴史上最多の武勲を挙げた部隊として名を残している。

「兵士のなかには収容所に囚われた人もいましたが、窮地にあってなお、自由を守るために命を危険にさらすことを厭わなかったのです」と、米下院退役軍人問題委員会の民主党トップであり、カリフォルニア州選出のマーク・タカノ下院議員は語る。そうすることで、彼らは自身が米国人であることを証明しようとしたのだという。

タカノの父と祖父は収容キャンプに送られたが、3人の大叔父は442連隊に入り、うち1人がイタリアで戦死した。

「彼らはよりよい世界を作ってくれました」


同じ苦しみの経験


2025年5月2日、死の行進の終点であるドイツのヴァアーキルヒェン。522大隊にささげられた記念碑と歴史を示すパネルの設置を祝うため、この地に150人もの人が集まった。

はるばるイスラエルや英国からの来賓もあった。記念碑には、522大隊の大砲の交差したエンブレムと、442連隊のトーチを掲げた手のエンブレムがあしらわれていた。

「80年前のこの日、父が雪のなかで凍える収容者たちを見たのだと思うとやりきれません」。そう話すのはトム・オイエだ。彼の父、ジョージ・オイエは、522大隊で前線の観測係をしていた。トム・オイエは、アンカレッジから父の足跡をたどった。

「父は、残虐な光景を目の当たりにした驚きをよく話していました」。69歳になるトムは、記念碑の前でそう語る。

1941年12月7日の真珠湾攻撃をきっかけに、10万の日系人が米国への忠誠に疑義を持たれ、西海岸の強制収容所に送られた。ノールの言う「救世主」たちのなかにも、それを経験した人がいた。

ノールは語る。「それは驚くべきことでした。苦しんでいたのは、私たちユダヤ人だけではなかったのです。宗教や見た目を理由に苦しんだ人々がほかにもいたのです」

ほぼ「ニセイ」の兵士ばかりの部隊が米軍に存在した事実は、彼らの実力の高さを示している。日系2世中心の第100歩兵大隊は、1943年はじめの戦闘訓練での働きで陸軍省に鮮烈な印象を残した。それによりフランクリン・D・ルーズベルト大統領は442連隊の結成を認めたのである。(続く)

後編では、終戦間際のドイツで日系米国人部隊は何を見て、どのような行動をとったのか、なぜその歴史が忘れられていたかについて、関係者の証言をもとに見ていく。


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