Text by Arnaud Miranda
トランプ政権に大きな影響力を持つとされる、カーティス・ヤーヴィンという人物がいる。彼が提唱するのは、民主主義の理念を廃し、政府を絶対君主が率いる企業として構築することを目指す「暗黒啓蒙」なる思想だ。これはいったいどんなもので、似ているようにみえる他の思想とはどう違うのか? フランスの政治学者が基礎から解説する。

マスクの政界進出を後押し
共和党によるドナルド・トランプの指名、さらに大統領就任直後の一連の措置以来、この新政権に密かに影響を与えているであろう、ある思想的運動の存在が浮上した。「新反動主義」だ。またの名を「暗黒啓蒙」という。
この運動の先頭に立っているのは、ブロガーのカーティス・ヤーヴィンだ。彼はトランプ政権に大きな影響力を持つビリオネアのピーター・ティールやマーク・アンドリーセン、さらにはJ・D・バンスやマイケル・アントンといった政治家とも非常に親しい。イーロン・マスクの政界進出を後押ししたともいわれており、特にガザの計画は彼のアイデアという話だ。

カーティス・ヤーヴィン Photo: David Merfield / Wikimedia Commons
実地での調査をしない限り、新政権に対する新反動主義思想の影響を正確に測るのは難しい。とはいえ、この思想に関心を向けることくらいはできるはずだ。
この思想はどこから来たのか。彼らの基本的な主張とは何か。トランプ新政権の一連の措置に影響を与えたであろう、彼らの政治理論とはどのようなものなのだろうか。
新反動主義の特異性を理解するために、まずはそれを思想的なカウンターカルチャーのひとつとして捉える必要がある。新反動主義はブログやチャットルームを通してネット上で生まれた。さらに、カーティス・ヤーヴィンとニック・ランドという、二人の重要人物のバーチャルな出会いも大きかった。新反動主義の誕生には、二つの契機があったのだ。
2007年4月、米国人エンジニアであったカーティス・ヤーヴィンは、メンシウス・モールドバグというペンネームで「アンクオリファイド・リザベーション」というブログを始めた。最初の記事「形式主義者宣言」は、彼の政治計画を明確に告げるものだ。そこで彼は、自分を「確信に満ちた、しかし失意のリバタリアン」と自称している。
リバタリアニズムは規制緩和された自由主義を求め、国家機能の制限や消失をめざす。「思想としては明白」だが、「実際に適用され得たことは一度もない」。ヤーヴィンによれば、リバタリアンの誤りは、自らのイデオロギーを「民主主義の極み」として理解している点にあるという。民主主義は根本的に「無能かつ破壊的」なのだ。
2007年から2008年にかけて、ヤーヴィンは精力的な執筆と挑発的な文章を通して多くの読者を引きつけた。主な読者は米国のリバタリアンだった。
暗黒啓蒙の誕生
新反動主義の特異性を理解するために、まずはそれを思想的なカウンターカルチャーのひとつとして捉える必要がある。新反動主義はブログやチャットルームを通してネット上で生まれた。さらに、カーティス・ヤーヴィンとニック・ランドという、二人の重要人物のバーチャルな出会いも大きかった。新反動主義の誕生には、二つの契機があったのだ。
2007年4月、米国人エンジニアであったカーティス・ヤーヴィンは、メンシウス・モールドバグというペンネームで「アンクオリファイド・リザベーション」というブログを始めた。最初の記事「形式主義者宣言」は、彼の政治計画を明確に告げるものだ。そこで彼は、自分を「確信に満ちた、しかし失意のリバタリアン」と自称している。
リバタリアニズムは規制緩和された自由主義を求め、国家機能の制限や消失をめざす。「思想としては明白」だが、「実際に適用され得たことは一度もない」。ヤーヴィンによれば、リバタリアンの誤りは、自らのイデオロギーを「民主主義の極み」として理解している点にあるという。民主主義は根本的に「無能かつ破壊的」なのだ。
2007年から2008年にかけて、ヤーヴィンは精力的な執筆と挑発的な文章を通して多くの読者を引きつけた。主な読者は米国のリバタリアンだった。
彼は民主主義という不合理な存在を解体できない理由のひとつとして進歩主義を挙げ、それをきっぱりと拒絶して、自らを反動主義者、あるいは新反動主義者、ポスト反動主義者、超反動主義者などと呼ぶ。新反動主義という言葉は、独立したひとつの思想運動を指して2010年から再び使われるようになった。
二つ目の契機は、ニック・ランドがヤーヴィンを発見したことによる。ニック・ランドは英ウォーリック大学の元哲学講師であり、前衛的な知的集団「サイバネティック文化研究ユニット(CCRU)」の主導者だった人物だ。彼は「加速主義」的な見方を支持し、資本主義の有害な効力を食い止めようとする左派の無益な「悲惨主義」を批判する。むしろ、資本主義の動きを受け入れて、それを加速させるべきだというのだ。
彼は無条件的な加速主義によって資本主義支持という立場をとったが、そこからヤーヴィンの思想に関心が向かうこととなった。ランドは自身のブログ「アーバン・フューチャー」で、2012年3月から「暗黒啓蒙」と題した連載記事を書いている。この連載を通して、新反動主義はネット上で真の知名度を獲得するに至り、思想的カウンターカルチャーとなっていくのである。
新反動主義の政治理論があるとすれば、それはヤーヴィンの文章のなかに見つけられるだろう。彼は最初のブログですでに、「新しいイデオロギーを構築する」という野心を表明している。ヤーヴィンはこれをリバタリアニズムを超えた動きとする一方で、形式主義的かつ「新官房主義的」でもあると述べている。まずはこれらの用語を説明しよう。
二つ目の契機は、ニック・ランドがヤーヴィンを発見したことによる。ニック・ランドは英ウォーリック大学の元哲学講師であり、前衛的な知的集団「サイバネティック文化研究ユニット(CCRU)」の主導者だった人物だ。彼は「加速主義」的な見方を支持し、資本主義の有害な効力を食い止めようとする左派の無益な「悲惨主義」を批判する。むしろ、資本主義の動きを受け入れて、それを加速させるべきだというのだ。
彼は無条件的な加速主義によって資本主義支持という立場をとったが、そこからヤーヴィンの思想に関心が向かうこととなった。ランドは自身のブログ「アーバン・フューチャー」で、2012年3月から「暗黒啓蒙」と題した連載記事を書いている。この連載を通して、新反動主義はネット上で真の知名度を獲得するに至り、思想的カウンターカルチャーとなっていくのである。
CEOが統治する国家
新反動主義の政治理論があるとすれば、それはヤーヴィンの文章のなかに見つけられるだろう。彼は最初のブログですでに、「新しいイデオロギーを構築する」という野心を表明している。ヤーヴィンはこれをリバタリアニズムを超えた動きとする一方で、形式主義的かつ「新官房主義的」でもあると述べている。まずはこれらの用語を説明しよう。
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