
Leor Zmigrod
ケンブリッジ大学の神経学者、政治心理学者。イデオロギーと脳との関係について書かれた新著『イデオロギーに染まる脳 柔軟に思考するためのラジカルな学び』(未邦訳)で注目を浴びる
Photo: Tom Jamieson/The New York Times and Illustration: Cemile Bingol/Getty Images
Text by Matt Richtel
ポピュリスト政治家の発言や極右・極左思想、陰謀論など、偏った考え方や情報が世界中で氾濫している。なぜそうしたものに惹かれる人がいるのか、彼らの脳の構造にはどのような特徴があるのか。ケンブリッジ大学の気鋭の神経科学者で、イデオロギーと脳の関係について書いた新著が話題のレオール・ズミグロッドが解説する。
世界的に思想による分断が深まっており、まったく異なる現実を生きている人がいるのではないかと感じることすらある。
「事実そうかもしれません」と、ケンブリッジ大学の神経学者で政治心理学者のレオール・ズミグロットは言う。新著『イデオロギーに染まる脳 柔軟に思考するためのラジカルな学び』(未邦訳)でズミグロッドは、なぜ極端なイデオロギーに傾倒する人がいるのか、彼らはどのように情報を受け取り、共有しているのかを、脳科学と生物学の見地から説明している。
彼女になぜ昨今、極端なイデオロギーに染まる人が増えているのか、彼らの思考様式や脳構造の特徴などについて聞いた。
イデオロギーは「処世術」
──イデオロギーとは何ですか?
世界はどのように機能しているのか、どうあるべきかについてのナラティブ(語り)です。
ここで言う世界は、人間社会、もしくは自然界を指していると考えられます。ただし、イデオロギーは単なる語りではなく、どのように考え、行動し、コミュニケーションをとるべきかについて厳格な規定を設けています。そこからの逸脱は許されず、外れた者は糾弾されます。
──あなたは、「硬直した思考は魅力的に映る」と指摘しています。それななぜだと考えていますか?
イデオロギーはこの世界を理解し、説明したいという願いを叶えてくれます。それに加え、他者とつながりたい、共同体意識を持ちたい、何かに帰属したいという欲求も満たしてくれます。
これは一種の「処世術」でもあると言えるでしょう。複雑な現実世界をやみくもに進んでいると、心がすり減ります。いちばん効率のよい生き方は、世界の成り立ちのパターンを知っておくことだと多くの人が感じているのでしょう。
イデオロギーは往々にして、「既存のルールに従って生きるのが唯一最善の方法であり、道徳的な生き方だ」と説きます。
しかしイデオロギーは、世界と直接向き合う感覚を麻痺させます。
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イデオロギーは往々にして、「既存のルールに従って生きるのが唯一最善の方法であり、道徳的な生き方だ」と説きます。
しかしイデオロギーは、世界と直接向き合う感覚を麻痺させます。
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